午前五時三十分、こんなに早くいつもの本流とやって来たのは今年になって初めてだった。
この所、朝の気温は低かったが、この日の朝は気温も高目で18℃程になって夏の訪れるのがもう間近と迫っているのを感じさせる。
いつも人気の対岸はざっと見ただけでも12~13人程は居るが、こちら左岸では餌釣り師が一人のみ、伸び伸びと釣りが出来る。
水温も一週間で随分と上昇し、この時間にも係わらず既に17℃もある。その為か浅瀬にはまるで鮭の産卵の様にニゴイらしき魚が群がり水飛沫が上がっている箇所がある。こんなにも魚の気配があるこの場所は初めて見た気がする。
今回は真っ先に沈黙の核心部に入り、念の為浅い手前から探って行くと早速アイツが釣れて来たが、暫く何も釣れていないと正直ちょっと嬉しくもある。(笑)
そこから暫くはいつもの様に何の反応もないまま日が高く暑くなってしまい一旦車へと戻り、ラインも交換し、再度核心部に向う。
水量も少ないがそれにしても浅くなった。タイプⅡ、タイプⅢでも直ぐ底へと達してしまう。その上、こんな川の中央付近にまで立ち込めるとは以前では全く考えられなかった。
上から、浅く早い流れが幾つか合流し、急激に深くなった箇所に差し掛かかる。ラインが底を小突く感触からロッドから伝わる。そこから突如、 「 ゴン、ゴン。」 と明らかに生命反応があった。
しかし、乗らない。いや、未熟にもフッキンングさせる事が出来なかったのだが、このアタリはやや怪しい。ニゴイではこんな明確なアタリは出ない。よって、ここでは初めての感触で今後に微かな期待感が持てた。
その後、ロッドとラインを幾度か交換しながら釣り続ける内に午前は終了した。
相変らずの晴天、こうなると午後からは例によって南よりの風が強まってしまうのだが、やや風裏になる対岸の釣り人も僅かになっている。早速移動し、崖下に入り込むのだが、この日の風は殆ど下流から吹き上げる風でこの恩恵は大して受けられなかった。遥か沖合では下流から強く風が吹き付け、本流の太い流れと衝突して大きく波立って、自然界の荒々しい一面を露呈し始める。
暫くすると何時もルアー釣り師に大人気の小岬の突端が空き、その場を確保出来たのだが、足元はガレ場で踏ん張りが利かず左からのキャストは殊更難しくなる。
この崖下の小岬、悪い事に直ぐ後には柳がある為、僅かに突き出た左側面を利用し、柳の直ぐ真横にDループを形成させる。恐らくここではルアー釣りでも気を抜いたキャストは出来ないだろう。
こんな狭い所に入り込み、事もあろうにフライのキャストをする。これはさぞかし釣れるに違い無いと長らく思い描いていた事が今実現している。
対岸の流れが反転し、流芯は足元を流れ水通しが良く、ガレ場の石も凡そ平野部を流れる本流には相応しく無い、まるで山上湖にある様な石で如何にも何かが起こりそうな気配である。しかし、生憎その釣り人の腕が悪いとこれが全く釣れない。
こうして日が傾き始めても風は収まらず、アタリすらも無い。晴天だった空には何時しかどんよりとくすんだ雲に覆われ、そして空虚な雰囲気を漂わせている。
薄暮の時間がやけに長く感じる。