対岸の菜の花も随分と大きくなっているだろう。
天候だけは相変わらずいいのだが、長時間、季節風にさらされ身体は冷え切っていた。
車に戻ると自転車屋氏は新調したネオプレーンのウェーダーにご満悦の様子でそれらを切っ掛けにして談笑しながら風の様子を見計らうのだが弱まりそうで弱まらない。むしろ再度、強まり始めていた。嫌な予感が当たったのか、それともこのロッドがいけないのか、 どうやら諦めるしかないらしい、もう一枚レイン用ジャケットを重ね着してスカンジナビアン・ヘッドを11mにしていた。
再開して何投かする内にこれが間違いではなかった事に確信が持てていた。 たった1mか、されど1mか、先週に10mのヘッドでも投げていて今一つの印象だったので単純に11mであろうと予測していただけだったが、この中では正解のようで随分と投げやすくなった。
しかし、この11mという長さは今迄自分の中で勝手に作り上げてきた尺度的なもの覆しかねない長さだ。これはロッドの長さから出た結論か、それとも反発力の強さから引き出されたのか、またはその両方が作用しているのか、キャスティングやロッドの知識が幼稚な自分にとってはよく分らなかった。
そうなってくると後は技術だけになってくるのだが、一向に上達しないキャストは単に強風だけとは言い訳出来ない部分があった。稀にも全ての動作が決まった時は幾ら追い風とはいえ、もの凄い勢いでカッ飛んでいく光景を見ているとこのロッドの潜在能力を再認識させられる。また、このロッドをもっと早い時期に試していなかったのは正解なのか、それとも後悔なのか自分でも気持ちの整理が付かなくなっていた。
ふと下流を見ると遥か遠くまで探って来ていた自転車屋氏のロッドが曲がっているに気が付いた。魚は既に足元まで寄せていたが、どうもあの様子では本命ではないのは明白だった。
益々強まる風に業を煮やしていた僕はずっと下流の葦原が近い場所なら風裏になるのでは?という僅かな期待を抱き、そこまで下っていた自転車屋氏と合流して確認したがやはり同じらしい。
ついでに先程の獲物を確認すると体長凡そ60cmで産卵間近の “ マルタ ” との事で同じ場所で数回のアタリがあったという。
そうなると何でもいいから釣りたくなってくるのは悲しき釣り人の性か、彼らが群れているのでは?という地点を流すが何の反応も無い。
2週連続で冷たい季節風に曝され、疲れ果てた僕はすっかり日照時間の延びた明るい夕方にも係わらず、引き上げる事を決めていた。
友人のスプーンを咥えた ” 巨大ウグイ ” 。
この本流が秘めた能力は計り知れない。