シングルハンドのスペイでは2時間程過ごせば十分であって、右岸左岸と釣り場を分けても丸一日続けてしまうと完全に飽きてしまうのは避けられない。(笑)
こうして再びログネスを振り回したい衝動に駆られた先日の午後。
現状で鱒が釣れる箇所とすれば只一つ。下流には未だどんよりとした雲が垂れ込んではいても頭上には晴れ間広がり始め、遥か上流側の山には真夏を思わせる雲が立ち昇り気温も急上昇し、一時間も経過すれば日陰に逃げ込みたい陽気が近付いていた。
しかしながら、ここへ来た以上、出来る限りの努力を惜しんではならない。こう自らを奮い立たせ午後からは前々回発見した急深で荒々しく一歩足を滑らせたならば、こんな出で立ちでは即溺死にも繋がり兼ねない流れに向かう。
日照りの川原では少し歩いただけで直ぐに汗だくになりそうな様相でも、カラリと湿度が低く然程の暑さを感じずに済んだのは幸いし、ふと、キィキィキィキィ・・・・と言った聞き覚えのある鳴き声に視線を合わせると対岸の川原にはチョウゲンボウが鳴きながら空を舞い、時にホバリングしながら野鼠等の捕獲体勢を見せる。
思えば、ここに来ると必ずこの猛禽類を見掛ける事から、対岸に分け入る人間は殆ど無く恐らくは彼らの縄張り、そして低く疎らに生える草地の川原は格好の餌場にもなっているのだろうと魚を釣り上げる行為とは何ら関係のない事までを考えてしまうのだが、飽く迄も生計を目的としない趣味としての釣りでは単に大きく野性的な魚だけを只管ズカズカと目を吊り上げて追い求めるだけに留まらず、常にその場の自然界にも目を向ける余裕を忘れずにしたい。
薄手のゴアテックス製ウェーダーはやはり軽快で足取りも軽く、これまでのネオプレーンは縫い包みを着ている様な印象だった事が解る。(笑)
タイプⅡのヘッドにタイプⅣのティップを接続した10mに僅かに満たないシューティング・ヘッドは着水直後から流体へ変わると徐々に流れに染み込みながら消え、やがて岸際からの石組みが極僅かに迫り出して瀬に強弱を作り出す地点に差し掛かる頃、誘い続けたログネスからゴン、ゴンと鈍い振動が伝わると、思わず 「 居た、居た。」 こう呟いていた。
こうして水面から割って出て来たのは、大きさで言えば毎度お約束の “ レイン坊~! ” ではあっても、その容姿は明らかに定着した魚で、何より表層水温19℃と言う渓流魚には過酷な状況の中、活発な虹鱒は脈々と息衝いていたと確認出来た事に今期この流域に通い続けた意義は大いにあった。
そして毎回こんな時、不思議に感じるのは、こうした魚達は猛烈に暑いこの地での夏を一体どう耐え忍んで過ごすのかと言う疑問が湧くのだが、そんな謎に満ちた鱒族の神秘性にも魅力を感じている釣り人も多いのではないか。