皮肉にも最も近い場所が最も実績の高い場所として遠方からも続々と釣り人が詰め掛けるといった事態へと陥ると、先日では遥々全く成果のない上流に釣り場を求めた。
日の出の直後現地に到着、案の定ここには誰一人見当たらない無人の本流がひっそりと佇んでいた。
遠くに聞こえるカッコウの囀りを聞きながら流れを独占しているも、ふと、これが本来の釣り、本来の本流釣りなのではないかと思える。
ここは釣り場としての実績は無くとも、下流には無い本来の本流が併せ持つ自然美を保っている様にも見えたが、これは表面上だけの事、昨年以来ここも確実に浅くなってしまい、川底はグレーダーで踏み固めた様に平たく、流れも変わった。
ゴーゴーといった音が聞こえそうな程の流芯は対岸寄りに流れ川幅も狭まっていた昨年に対し、今年の流芯は広く中央付近を流れ川幅自体も広がってしまった。
やがて上の落ち込みから何の反応も無く釣り下って行くと流れは更に浅くなり、下流に見える中州に渡る事も可能に思えたが、そこまでの距離も長くこのまま渡りきってしまうと今度は一転引返す際には流れを逆らっての縦断となり、とても危険な行為となるものの、その中州によって分流された左右の流れは実に魅力的で桃源郷の様に見えてならず、等々渡ってしまった。
葦が茂りオオヨシキリの囀る対岸、先ずは中州右を釣り下っていた。やはり大した水深は無いが流芯は対岸に沿って位置しフライを流し込むには絶好の流れをしていたが、ここも無反応に終わり次に中州の左側へ向った。
ここも流芯は対岸寄りに沿って流れ川底の石は先程の箇所よりも大きく、まるで越後の本流を彷彿とさせ如何にも魚が潜んでいそうな雰囲気を醸し出していたものの、ここを半分も探り終えない内に濁りと共に雑草が流下している事に気付き嫌な予感がした。
ここ数日間、関東地方は曇天続きからか雪代が中断し川は減水していたが、この日五日振りの晴天で再度雪代の流入が活発化すると中州に取り残される恐れがあり急遽引返す事にした。
先程、下り降りた流れを遡行するのは大変だった。こんな事ならウェーディングスタッフを携行しておくべきだったと後悔しても遅い。朝方の気温は9℃と冷え込んだ為、6ミリのネオプレーンの下は更に重ね着までしていた。400メートルはあろうかという長い縦断経路、途中で休憩を挟みたい箇所も一度動作を止めてしまうと流されそうになり休む事も儘ならない。ふと川に押し流される死の光景が頭を横切った。
ここを渡るのに如何程の時間を要したのか、取り敢えずは無事に生還したが太股の筋肉はパンパンに張り、足腰は疲労困憊で暫く水辺にへたり込んで動く事が出来なかった。
後日、この時の水位データを調べると案の定川は増水しており、幾ら浅くなったとはいえ本流の恐ろしさを久し振り体感した瞬間でもあった。