何事もそうなのだろうが、習い始めの頃はたったの一週間という時の流れでも、心身共に覚えたばかりの記憶を薄れさせる。
フライフィッシング3度目の友人、前回でも随分と上達していたが、やはり手首の返りは一週間で元に戻っているのが一目見て分った。
やや遠くから彼にその事を告げたが、果たしてそれが聞こえたのかどうかは定かでは無かった。この際、敢えて黙って置く事とした。
淀んだ曇り空から時折明るい日差しが差し込み、ゆったりとした初冬の一日が過ぎて行った。友人のキャスト映像を彼自身にも見て貰おうとビデオカメラで撮影し、それを終えるといつの間にかシングルハンドロッドを挟んでキャストの話が始まり、更にスペイキャストの話題になっていた。
そうなると、彼が手にしていたシングハンドの4番ロッドでスペイキャストらしき事をやって見せる事になった。勿論ラインもオーバーヘッドで使用していたままのラインなのでちょっとしたキャストではあるのだが、実際の釣りでも充分使えるし、彼も目を丸くして興味津々の様子だ。
次は彼がキャストする。リフトからスイープに移行するがこの時、やはり手首がギクッと返って水面にラインを叩き付けてしまう。属に言う 「 ブラッデイL 」 という現象だが、これを修正するのにはどの様に伝えればいいのか正直分らなかった。
色々と試行錯誤し、暫くするとやはり手首が固定出来ていないが一番の原因となっている様だったので、これを正す様に伝えるとどうだろう、何と見違える様になり、本人も驚いた表情を浮かべている。どうやら納得したらしい。
今度はオーバーヘッドキャストでも手首を固定する事を意識的に行う様にしてキャストして貰うと、とても三度目とは思えない様な姿勢となっている。当の本人もこの事はずっと以前から言われ続けていた事なので理解していたのだが、何時しか自己流に向っていたらしく、今回でこの事の重要性を深く認識し、この基本についての自己流は有り得ないのだと感じてくれた。
そうなると彼もフライフィッシングのキャスティングという行為自体が更に楽しくてしょうがない様子だ。何度も何度も綺麗なループが前後に揺らしながら、初冬の夕日に照らされていた。